顔面けいれんと三叉神経痛

●症状
 【顔面けいれん】片側のまぶた(上下)、頬、口角にピクピクとけいれんが起こり、徐々に進行して頬が引きつれたり、しばしば片目が開けられなくなります。顔に症状が出現するため精神的ストレスが非常に大きくなり、車の運転時の危険性が増します。
 【三叉神経痛】冷たい空気に触れる、歯を磨く、食事をする、などのきっかけによって、片側の顔面、口の中、歯茎などに激しい痛みが走ります。この痛みは断続的に起こり、その頻度は様々で、虫歯の痛みと間違えて歯科を受診される方もいます。
 以下、顔面けいれんと三叉神経痛についての説明と治療法をご紹介します。
●原因
 顔面けいれんでは顔の運動をつかさどる顔面神経が、また三叉神経痛では顔の感覚をつかさどる三叉神経が、脳幹から出た直後の部分(Root Exit Zone (REZ))で血管(主に動脈)に圧迫されることが主な原因です。圧迫された顔面(三叉)神経(核)が興奮し、顔面(三叉)神経が支配する表情筋を自分の意思とは無関係にピクピクと動かしたり、顔面に激しい痛みが走ったりします。頻度は人口1万人あたり数人程度といわれています。
●治療法
【顔面けいれん】
○薬物療法
 ベンゾジアゼピン系の鎮静・抗不安薬等の内服により、けいれんが和らぐ場合があります。但しけいれんを完全に止めることは難しく、長期的な効果はあまり期待できません。
○ボトックス治療
 神経毒であるボツリヌス毒素を顔面に注射することで顔面けいれんを鎮めます。注射で済むというメリットがありますが根治治療ではなく、注射の効果も数ヶ月程度しか持続しないため、数ヶ月毎に注射を受ける必要があり、注射を長期間継続すると顔面麻痺を起こす場合があります。

【三叉神経痛】
○薬物療法
 カルバマゼピンという抗てんかん薬を内服する事で、ある程度痛みをコントロール可能です。ただし、副作用として眠くなったりフラフラしたりする事があり日常生活が成り立たなくなったり、内服を続ける事で徐々に効果が薄れてしまう事もあります。

 以上はあくまでも症状に対する対症療法であり、原因を根本的に取り除くための根治療法は以下の手術になります。

【顔面けいれんと三叉神経痛に対する根治的治療法】
○頭蓋内微小血管減圧術(Micro Vascular Decompression (MVD))
 全身麻酔下で行います。耳介後部の乳様突起の根元を中心に、皮膚を約5cm程度切開し、直下の頭蓋骨に500円玉くらいの大きさの穴を開けます。そこから手術用顕微鏡を使って脳の中に進み、小脳越しの奥深くで顔面(三叉)神経が脳幹から出てくる部分(REZ)で血管が顔面神経を圧迫している所見を確認し、血管を移動させて圧迫を解除する操作を行います。通常、約3時間程度の手術時間です。
 手術が成功すれば、けいれん(痛み)が一生無くなることが期待できます。ただし、聴力障害、耳鳴り、めまい、顔面神経麻痺、顔面のしびれ、頭痛、髄液漏、嚥下障害等の合併症は一定の頻度で起こり得ます。それぞれの治療法の利害得失を十分理解して頂き、最適の治療法を選んで頂きます。

 唯一の根治療法である「手術」を選択された場合、当院では患者様の負担が少なく治療成績の良い方法を実施していますので、以下に紹介させて頂きます。

【秋山脳神経外科病院での手術法(術式)】
 当院では、30年ほど前に大学同門の大先輩である故・中西亨医師が確立したとされる方法で、頭蓋内微小血管減圧術(Micro Vascular Decompression (MVD))を行っています。この術式の最大の利点は、以下の2点です。
① 患者さんは仰臥位の状態で手術を受ける
  →麻酔の負担が少なく、床ずれなどの合併症も極めて少ない。
② 手術中、小脳をほとんど圧迫することなく手術ができる
  →術後の聴覚障害や小脳障害等の合併症が出現しにくい。

【通常の術式と本術式との違い】
●通常の術式(左顔面けいれんの場合)
 側臥位か腹臥位(うつぶせ)で行います。頭蓋内で小脳は重力によって下に垂れ下がり、左側の小脳前面と頭蓋骨の隙間は下図のようになります。
 手術は、この「隙間」を利用して顕微鏡下で行いますが、隙間が狭いと小脳が邪魔となるため、「脳ベラ」という金属のヘラを使って小脳を一時的に圧迫して隙間を確保する必要が出て来ます。

●当院での術式(仰臥位)
 仰臥位(仰向け)で顔を横に向けて手術を行います。頭蓋内で小脳は重力で下に垂れ下がり、小脳前面と頭蓋骨の隙間は下図のように開いた状態になります。
 仰臥位で行えば、手術中に小脳を「脳ベラ」で圧迫する必要がなくなり、術後の合併症(めまい、聴力障害など)が著明に減少します。

 当院副院長(矢﨑貴仁)の前勤務先病院において1988(昭和63)年1月から2010(平成22)年5月までの間、仰臥位の術式で微小血管減圧術(MVD)が施行された顔面けいれん患者154名に対し、アンケート調査(近藤明憲.脳外誌19: 691-695, 2010)を行った結果、術後に顔面けいれんが完全に消失した、あるいは軽度残ったが外見上目立たない方は、合わせて約85%でした。また、全く合併症が起こらなかった方は78%でした。さらに、本術式による手術に対して「85%の満足度」という結果が頂けたことは非常に注目すべき点です。

 仰臥位での術式では術者にある程度の訓練と経験が必要となりますが、当院の脳神経外科スタッフは十分な経験を有し、さらに日々研鑽を行っています。顔面けいれんや三叉神経痛は日常生活に大きなストレスを生む原因となりますので、もしそのような症状でお悩みの際には、ぜひお気軽に当院脳神経外科外来をご受診ください。